ドバイは、法人税がないことを大きな魅力として多国籍企業の拠点となってきました。しかし、2023年6月に法人税が導入されたことにより、税制が大きく変化しています。
今回は、ドバイの法人税の詳細や法人税導入の背景、導入後のビジネス環境への影響について解説します。法人設立のメリット・デメリットや税務リスクについても掘り下げていきますので、ぜひ最後までお読みください。
※この記事では、1ディルハム=40円でレート換算します。
ドバイで法人税が導入された背景とその影響
アラブ首長国連邦(UAE)は、これまで法人税を課さないタックスヘイブン政策を採用していましたが、2023年に法人税を導入しました。この政策転換は、ドバイのビジネス環境や国際的な評価に大きな影響を与えています。
2023年に法人税が施行されたドバイ
ドバイでは、2023年6月1日以降の会計年度から法人税の徴収を始めました。この施行により、これまで非課税で事業を運営していた多くの企業が新たな税務義務を負います。一律9%という低い税率であるものの、初めて税負担を課される企業にとっては大きな変化です。
ドバイを拠点にする多国籍企業にとって、税制の変化は長期的なビジネス戦略を見直す契機となるでしょう。
法人税が導入された背景
法人税の導入背景には、国際的な税制整合性の強化を求める動きがあります。経済協力開発機構(OECD)が推進する「税源浸食と利益移転(BEPS)」対抗プロジェクトに応じた形で、UAEは国際的な基準への追従を決定しました。
税源浸食と利益移転(BEPS)とは
税源浸食と利益移転(BEPS)は、英語で「Base Erosion and Profit Shifting」と呼ばれ、多国籍企業が税制の違いや抜け穴を利用して、利益を本来課税されるべき国から移転させる行為を指します。この現象は各国の税収を減少させ、税制の公平性を損なう要因となっています。
BEPSに対抗する行動計画
各国の税制の隙間を利用した多国籍企業の租税回避行為は、世界的に問題視されるようになり、OECD(経済協力開発機構)は2013年BEPSに対抗する行動計画を発表し、各国に対して具体的な対策を講じるよう呼びかけています。
タックスヘイブン政策の転換によって、ドバイは単なる「税制優遇地」から持続可能な経済成長を目指すモデルへと歩んでいます。
ドバイ法人税の基本と具体的な内容
ドバイで導入された法人税は、国際的な基準と比較しても低水準であり、依然として競争力の高い税制環境を維持しています。ここでは、課税対象や税率、免税条件などについて解説します。
課税対象となる企業
ドバイで法人税の課税対象となるのは、UAE国内での年間所得が37万5,000ディルハム(約1,500万円)を超える企業です。課税対象は国内外の収益を含み、企業は正確な所得報告を行う必要があります。所得がこの基準額を下回る場合、法人税は課されません。
フリーゾーンとメインランドの違い
ドバイには、法人設立が可能な「フリーゾーン」と「メインランド」という2つの地域が存在します。
フリーゾーンとは、外国企業の誘致を目的として税制や法的優遇措置が整備されている経済特区です。
メインランドとはUAE本国を指し、すべての法人所得が課税対象となります。
フリーゾーンでは、特定のビジネス活動に限定されることがあるため、事業内容によって設立地域を選択する必要があります。
法人税率
法人税率は一律9%に設定されています。この税率は国際的な水準と比較して非常に低く、企業がドバイを選ぶ理由の一つとなっています。また、この税率はUAEが国際競争力を維持するための重要な要素です。
免税対象と特例措置
年間所得が37万5,000ディルハム以下の企業は免税対象となります。また、公益事業や特定の農業関連事業にも免税措置が適用されます。これらの条件を活用することで、企業は税負担を大幅に軽減することが可能です。
ドバイ法人設立のメリット
法人税が導入された後も、ドバイはビジネス拠点としての魅力を保ち続けています。ドバイで法人を設立することには、税制面の優遇だけでなく、地理的・経済的な利点も多く存在します。ここでは、ドバイ法人設立のメリットを4つの観点から深堀りして解説します。
- 圧倒的な節税につながる
- 国際的なネットワークを築ける
- ビジネス環境が整っている
- 居住ビザが取得できる
圧倒的な節税につながる
ドバイの法人税率は一律9%と非常に低く、主要国の法人税率と比較しても明らかに有利です。たとえば、日本の法人税の実効税率は約30%で、欧州やアメリカも20%以上の税率を課しています。この差は企業の利益に直結するため、グローバル展開を目指す企業にとってドバイは大きな魅力となります。
ドバイでは年間所得が37万5,000ディルハム(約1,500万円)以下の企業は法人税が免除されるという条件があります。スタートアップや中小企業にとっても進出しやすい環境が用意されているのです。公益事業や特定の農業関連事業などの分野では免税措置が適用されるため、こうした条件を満たすことで税負担の軽減が可能です。
節税の観点から見ても、ドバイは非常に柔軟な税制を持っており、事業の種類や規模に応じて税制メリットを最大限に活用できます。これらの税制優遇措置は、企業のキャッシュフローを安定させ、さらなる成長に資金を投資する余地を生み出します。
国際的なネットワークを築ける
ドバイは地理的にアジア、ヨーロッパ、アフリカの交点に位置しており、「世界のハブ」になりつつあります。地理的優位性により、ドバイは国際的な物流、貿易、観光、金融の中心地として発展してきました。多国籍企業がこぞって拠点を構える理由も、この戦略的なロケーションにあります。
ドバイを拠点にすることで、世界中の主要都市と容易にアクセス可能になります。ドバイのビジネス拠点化を支えるドバイ国際空港は、旅客数と貨物輸送量の両面で世界有数の規模を誇り、「世界でもっとも忙しい空港」として有名です。
ドバイ政府は外国企業の誘致に積極的で、投資家にとってフレンドリーな政策を実施しています。多国籍企業の進出が相次ぎ、ビジネスパートナーや顧客ネットワークを築く絶好の環境が整っています。こうした環境は、ドバイで事業を展開する企業にとって大きなアドバンテージといえるでしょう。
ビジネス環境が整っている
ドバイは、インフラの整備が非常に進んでいる都市として知られています。世界トップクラスの物流ネットワークや港湾施設が整備されており、国際貿易の効率を最大限に引き上げることが可能です。
ドバイ港(ジュベルアリ港)は中東最大の貿易拠点であり、年間数百万のコンテナを取り扱っています。このような物流環境は、輸出入をともなう事業にとって理想的な条件を提供します。
ITインフラも非常に充実しており、高速インターネットやクラウドサービスが利用可能な環境が整っています。ドバイは「スマートシティ」を目指しており、最新技術を活用した都市管理や行政サービスが導入されています。このような先進的な取り組みは、企業活動の効率化を促進し、競争力を高める要因となります。
さらに、金融サービスの分野でもドバイは他の都市を圧倒しています。ドバイ国際金融センター(DIFC)は、世界有数の金融ハブであり、多くの国際銀行や保険会社が拠点を構えています。これにより、企業は資金調達や金融取引を円滑に行うことができます。
ドバイ政府はまた、暗号資産やWeb3.0(ウェブスリー)関連のスタートアップを積極的に支援しており、未来志向のビジネス環境を構築しています。暗号資産に関して、まだまだ否定的な態度をとる国が多い中、ドバイ政府の支援は次世代技術に取り組む企業にとって魅力的な要素となっています。
居住ビザが取得できる
ドバイで法人を設立するもう一つの大きなメリットは、経営者やその家族が居住ビザを取得できる点です。この居住ビザは、ドバイでの長期滞在を可能にするだけでなく、周辺諸国への移動の自由を確保する上でも重要な役割を果たします。
居住ビザを取得することで、経営者は現地での生活基盤を整え、家族も同様に教育や医療などのサービスを受けられます。ドバイには、国際的な水準を満たす教育機関や医療施設が数多くあり、高い生活品質を享受できます。
居住ビザの取得により、ドバイでの銀行口座の開設や不動産の購入が容易になる点も見逃せません。これらの手続きは、事業運営だけでなく、個人の資産管理にも役立つ重要な要素です。
ドバイは治安の良さでも評価されており、安心して生活できる環境が整っています。このような居住環境の魅力も、ドバイで法人を設立する企業や経営者にとって大きなメリットといえるでしょう。
ドバイ法人設立のデメリット
ドバイでの法人設立には多くのメリットがありますが、デメリットも存在します。ここでは、ドバイ法人設立のデメリットについて解説します。
- 法人税以外のコストがかかる
- 信頼できるエージェントに依頼する必要
法人税以外のコストがかかる
ドバイでの法人設立には、法人税以外の設立コストがかかります。法人設立にかかわる費用としては、法人登記料やビジネスライセンス費用、オフィスの賃料などがあり、これらの合計は100万円から200万円程度になります。
法人維持のためのランニングコストも発生します。ライセンスの更新費用やオフィスの賃料、従業員の給与、保険料などがあります。ドバイは物価が比較的高いため、これらのコストは予想以上にかさむ場合があります。
信頼できるエージェントに依頼する必要がある
ドバイでの法人設立は、手続きが複雑であることもデメリットの一つです。言語や文化の違いから、必要な書類や手続きが理解しづらい場合があります。また、エミレタイゼーション政策により、現地国籍の従業員を一定割合雇用する義務があるため、これもコストに影響を与えます。
不適切なエージェントを選ぶと、思わぬトラブルに巻き込まれるリスクがあります。ドバイで法人設立を行う際には、信頼できるエージェントを選ぶことが非常に重要です。次のポイントを考慮して選ぶと良いでしょう。
- 実績
- 透明性のある料金体系
- サポート体制
- 専門知識
実績
過去の顧客のレビューや成功事例を確認し、エージェントの信頼性を評価します。実績が豊富なエージェントは、手続きのスムーズさやトラブル回避に役立ちます。
透明性のある料金体系
料金が明確で、隠れた費用がないエージェントを選ぶことが重要です。契約前に詳細な見積もりを求め、納得できる内容であるか確認しましょう。
サポート体制
設立後のサポートやアフターサービスが充実しているかも重要なポイントです。法人設立後の手続きやビザ取得など、継続的なサポートが必要です。
専門知識
ドバイの法律やビジネス環境に精通した専門家が在籍しているか確認します。特に、税務や法務に関する知識が豊富なエージェントは、安心して依頼できます
ドバイで法人を設立する際の税務リスク
ドバイは法人設立において税制面で多くの魅力を提供する一方、日本の税制や国際的な税務規制への適切な理解が求められます。ここでは、ドバイで法人を設立する際に考慮すべき主要な税務リスクについて解説します。
国外転出時課税制度
日本居住者がドバイに移住する際、国外転出時課税制度が適用されます。この制度は、日本の税制において居住者が海外に転出する際、保有する時価1億円以上の金融資産(株式や投資信託など)の含み益に対して所得税を課税するものです。
2025年1月時点では、暗号資産はこの制度の対象外ですが、将来的な法改正の可能性もあるため注意が必要です。
この制度では、実際に金融資産を利益確定していない段階で課税されるため、注意が必要です。準備が不足していると、予期せぬ出費を強いられます。特に、出国直前に株価が大幅に上昇した場合など、含み益に対して多額の税金を支払う可能性があります。
事前に十分な資金準備をしていないと、税金の支払いが困難となり、結果として売りたくない金融資産を売却せざるを得なくなる場合もあります。資産移転をともなう場合は、税務上の最適なタイミングや手続きについて専門家のアドバイスを受けておきます。
外国子会社合算税制(タックスヘイブン対策税制)
日本居住者が所有する外国法人の所得が、日本国内で課税対象となる制度です。この制度は、一定条件を満たす外国子会社が日本のタックスヘイブン対策税制の対象となった場合に適用されます。
ドバイ法人もこの制度の対象となる可能性があり、特に所得が「ペーパーカンパニー」と見なされる場合や、実質的な経済活動が不足している場合にリスクが高まります。
同制度の適用によって、日本国内での課税額が増加する可能性があります。特に、ドバイ法人の収益が高額である場合や、所有比率が高い場合に影響を受けやすくなります。
たとえば、ドバイ法人の実態が十分に説明できない場合、税務当局からの調査を受けるリスクが高まります。対策としては、収益構造や所有比率を明確にし、現地での実態ある経済活動を証明できる書類の準備が挙げられます。また、国際税務に詳しい税理士と連携し、制度適用の有無や適切な対策を行います。
移転価格税制
移転価格税制は、日本法人と海外法人との間で行われる取引が適正な価格で行われているかを確認するための制度です。
移転価格税制は、国際的な取引での企業間の価格設定に関する税制のことなのですが、一番の狙いは海外の子会社・関連企業との取引を通じた企業の所得の海外移転を防止するところにあります。
関連企業(親会社と子会社、またはグループ企業)間での取引価格が市場価格からかけ離れている場合に、税務当局がその価格を調整し、適正な税額を確保するための規制となります。具体的には、商品の販売価格や貸付金利などが第三者間の取引価格と比較して適正である必要があります。
移転価格税制は、一定規模以上の日本法人・海外法人を経営する経営者には注意が求められる制度です。移転価格税制に違反した場合、日本の税務当局による厳しい調査や追加課税の対象となる可能性があります。
このようなリスクを回避するためには、関連会社間の取引価格が市場価格と一致していることを証明する移転価格文書を適切に準備する必要があります。複雑な取引の場合は、事前確認制度(APA)を活用して税務当局との合意を得ることも有効な対策です。
対策としては、国際税務に詳しい税理士や会計士、コンサルタントの協力が必要不可欠です。
まとめ
ドバイは長年、法人税がない魅力的なビジネス拠点として注目されてきましたが、2023年に法人税が導入され、税制が大きく変化しました。それでもドバイで法人を設立するメリットはとても大きなものがあります。ドバイ法人の設立によるビジネス戦略の参考として、本記事を役立ててください。