ドバイは、目覚ましい経済成長を背景に、そのダイナミズムが不動産市場にも色濃く反映され、近年著しい価格上昇を続けています。今や世界経済を牽引するほどの存在感を放ち、投資家たちの熱い視線を集めています。
今回は、そんな変革の波に乗り続けるドバイの不動産価格の推移を、豊富な統計データにもとづき徹底的に分析します。過去の激動期から現在の上昇トレンド、将来の市場展望までを詳細に解説します。
ドバイ不動産市場の推移
21世紀に入り、ドバイの不動産市場はまさにジェットコースターのような、目覚ましい成長と幾度かの大きな変動を経験してきました。近代的な建築物が次々と建設され、世界有数の観光・ビジネス拠点としての地位を確立する一方で、2008年のリーマンショックや2020年のコロナパンデミックといった、世界経済を揺るがす未曽有の危機にも翻弄されてきた歴史があります。ここでは、その主要な流れを時系列で振り返ります。
- 2008年~2010年:リーマンショックとドバイ・ショック
- 2011年~2019年:ドバイ万博での立ち直り
- 2020年~2022年:パンデミックの到来
- 2023年~:アフターコロナの復活劇
2008年~2010年:リーマンショックとドバイ・ショック
2008年、アメリカ発のリーマンショックに端を発する世界的な金融危機が発生しました。この影響は中東にも波及し、ドバイでも深刻な経済危機、いわゆる「ドバイ・ショック」が起きました。
当時、ドバイは大規模な不動産開発プロジェクトを数多く進めており、それらに対する資金繰りが困難になったのです。ドバイ政府系企業「ドバイ・ワールド」が約590億ドルの負債を抱え、2009年11月に債務返済の延期を発表したことで、ドバイだけでなく世界中に信用不安が広がりました。
結果として、ドバイでは多くの不動産開発プロジェクトが凍結または中止となり、それまで右肩上がりだった不動産価格は急激な下落に見舞われたのです。
2011年~2019年:ドバイ万博での立ち直り
2010年代に入ると、ドバイは徐々に立ち直りの兆しを見せ始めます。決定的な転機となったのが、2013年に発表された「2020年ドバイ万博(Expo 2020 Dubai)」の開催決定です。このニュースは国際的な注目を集め、不動産市場にも明るい兆しをもたらしました。
政府はインフラ整備を加速させ、観光業の強化やビジネス環境の改善に努めました。これにより不動産需要は再び高まり、ドバイ中心部や主要開発地域では価格の上昇が見られました。新興エリアも徐々に開発が進み、市場全体としては安定的な成長局面へと移行していきました。
2020年~2022年:パンデミックの到来
2020年、新型コロナウイルスの世界的な拡大により、ドバイも再び経済の停滞を余儀なくされました。コロナパンデミックにより、世界の主要都市でロックダウンが行われ、人々の日常活動自体が制限される事態に陥りました。
観光業への依存度が高いドバイでは、国際的な渡航制限が直撃し、観光客が一時的にゼロとなりました。不動産市場も取引件数が激減しました。不動産価格が下落傾向を示し、投資家の動きも鈍化しました。
ただ、ドバイ政府は迅速に経済回復策を打ち出し、ワクチン接種の強力な推進やドバイ万博への観光客受け入れを表明、市場の早期回復を目指しました。柔軟な対応により、他国に比べてドバイの経済再生は比較的早い段階で進んだといえます。
2023年~:アフターコロナの復活劇
2023年以降、ドバイの不動産市場は急速に回復基調へと転じました。パンデミックの影響を乗り越えた富裕層やデジタルノマドたちがドバイへの移住を加速させ、住宅需要は急増しました。
ドバイ万博をきっかけとした都市インフラの再開発、メトロやトラムなど交通網の整備も功を奏しました。先行きが不透明なロシアや中国を避け、安定した投資先を探す動きと相まって、海外の投資家が再びドバイに注目しています。こうした状況から、ドバイの不動産価格は再び上昇トレンドに乗りつつあります。
ドバイ不動産市場の魅力
ドバイ不動産市場の魅力は、単に不動産価格が上昇しているだけではありません。その具体的なポイントについて解説します。
- 外国人でも所有権付き不動産が購入できる
- 圧倒的な節税メリットがある
- キャピタルゲインとインカムゲインが狙える
- 不動産投資でゴールデンビザが取得できる
外国人でも所有権付き不動産が購入できる
ドバイでは、指定されたフリーホールドゾーン内であれば、外国人でも完全所有権を持つ不動産を購入できます。この制度は2002年に導入され、海外からの投資を呼び込む大きな契機となりました。
世界の主要都市の中には、外国人の土地所有を認めていない地域も存在する一方で、ドバイの自由度の高さは特筆されます。外国人投資家にとって、安心して不動産取引に取り組める制度が整備されているといえるでしょう。
圧倒的な節税メリットがある
ドバイでの不動産投資における最大の魅力の一つが、そのタックスヘイブン政策です。所得税やキャピタルゲイン税(譲渡所得税)が課されないため、不動産投資から得られる収益のほぼ全額を純利益として享受できます。
不動産取得税や固定資産税も存在しません。法人税は2023年に導入されましたが、その税率は9%と国際的に見ても低い水準です。
これらの税制上の優遇措置は、高額な資産を運用する投資家にとって極めて魅力的です。加えて、相続税や贈与税も課税されないため、次世代への円滑な資産承継を検討している富裕層からも熱い視線が注がれています。
ただし、ドバイのタックスヘイブン政策による恩恵を受けるためには、日本国内の非居住者となる必要があります。また、日本の相続税・贈与税を回避するためには、相続人および被相続人の双方が日本国外に10年以上居住する必要があります。
節税のためにドバイ移住を考えている人は、関連する法令を十分に理解するようにしましょう。
キャピタルゲインとインカムゲインが狙える
ドバイの不動産投資は、価格上昇によるキャピタルゲインだけでなく、賃貸需要の高さから安定した家賃収入=インカムゲインも期待できます。観光業が盛んであることに加え、世界中からビジネスパーソンやデジタルノマドが流入しているため、住宅の需要は継続的に存在します。
ドバイ中心部や人気エリアでは、賃貸物件がつねに高い稼働率を維持しており、オーナーにとってはキャピタルゲインとインカムゲインのダブルで収益を狙える市場環境が整っています。
不動産投資でゴールデンビザが取得できる
ドバイでは、一定条件を満たす不動産投資家に対して、5年間または10年間の長期滞在を可能にするゴールデンビザ(Golden Visa)を発行しています。具体的な要件は以下のとおりです。
- 200万ディルハム(約8,000万円)以上の不動産の購入を購入していること(UAE指定の銀行からの融資も可能)
- 購入した不動産を申請者名義で完全所有していること
- 共同所有の場合、持ち分の合計が200万ディルハム以上であること
- 住宅用・商業用不動産のどちらも対象
ゴールデンビザ以外にも、一定額以上の不動産を購入した個人に発行される居住ビザとして不動産ビザ(Property Owner Visa)があります。要件は、以下になります。
- 75万AED(約3,750万円)以上の物件を購入すること
- 所有権が認められたエリア内のフリーホールド物件であること
こうしたビザを取得すれば、自由な出入国やビジネス展開がしやすくなり、投資家にとっては非常に大きなメリットとなります。単なる資産運用を超えて、ライフスタイルの拡張も可能になるのです。
統計から見る近年のドバイの不動産価格の推移
ここでは、具体的なドバイ全体の不動産価格の推移を「DXB Interact」のデータをもとに紹介します。コロナ禍最中の2020年からのデータを見ることによって、ドバイ不動産市場の回復と成長が読み取れます。
アパートメントのsqftあたりの物件価格の推移
アパートメント(マンション)のsqftあたりの価格推移は次のとおりです。sqft(スクエア・フィート)あたりとは、1平方フィートあたりの意味です。

2020年 | 1,098AED |
2021年 | 1,187AED |
2022年 | 1,526AED |
2023年 | 1,517AED |
2024年 | 1,631AED |
出典:DXB Interact
2022年頃から急激に回復している様子がわかります。パンデミックからの回復とともに、投資家心理の改善や新規開発プロジェクトの進展が価格に反映された結果といえるでしょう。
ヴィラのsqftあたりの物件価格の推移
ヴィラ(戸建て住宅)の1平方フィートあたりの価格推移は、次のとおり安定した上昇基調を示しています。

2020年 | 941AED |
2021年 | 1,021AED |
2022年 | 1,242AED |
2023年 | 1,400AED |
2024年 | 1,541AED |
出典:DXB Interact
特に広い居住空間を求める富裕層や家族層からの需要が高まっていることが背景にあります。

商業施設のsqftあたりの物件価格の推移
商業施設の1平方フィートあたりの価格も、コロナ禍を経て着実に上昇しています。

2020年 | 633AED |
2021年 | 703AED |
2022年 | 858AED |
2023年 | 1,075AED |
2024年 | 1,377AED |
出典:DXB Interact
商業活動の回復と、ドバイがビジネスハブとしての地位を強化していることが、商業用不動産の需要増に直結しています。
アパートメントの物件価格の推移
アパートメントの物件価格は次のように推移しています。

2020年 | 888,932AED |
2021年 | 1,024,777AED |
2022年 | 1,245,888AED |
2023年 | 1,235,000AED |
2024年 | 1,264,880AED |
出典:DXB Interact
一時的な需給バランスの調整を経て、安定成長へ向かう過程を反映しています。
ヴィラの物件価格の推移
ヴィラの平均価格は、非常に力強い成長を見せています。

2020年 | 1,770,028AED |
2021年 | 2,200,000AED |
2022年 | 2,088,000AED |
2023年 | 2,850,000AED |
2024年 | 3,269,888AED |
出典:DXB Interact
広さやラグジュアリーな環境を重視する需要の高まりが、ヴィラ価格を押し上げています。
商業施設の物件価格の推移
商業施設の平均価格も右肩上がりで推移しています。

2020年 | 625,000AED |
2021年 | 700,000AED |
2022年 | 827,925AED |
2023年 | 1,050,000AED |
2024年 | 1,390,000AED |
出典:DXB Interact
商業施設への投資は、観光・ビジネス需要の増大を背景に、今後も堅調な伸びが期待されています。
まとめ
ドバイの不動産市場は、過去20年にわたり劇的な成長と変動を繰り返してきました。2009年のドバイ・ショックや2020年のパンデミックといった世界的な経済危機に直面しながらも、その都度、柔軟な政策対応とインフラ投資により回復を遂げ、今日に至っています。
統計データからも明らかなように、アパートメント、ヴィラ、商業施設すべての分野において価格上昇が続いており、パンデミックによる一時的な減速を乗り越え、ドバイ市場は再び成長軌道に乗っています。
今後もドバイでは、さらなる大規模なインフラ整備や都市再開発が計画されており、不動産市場は引き続き好調を維持すると予想されています。トランプ関税といった波乱要因や地政学リスクといった外的要因の影響も受けますが、ドバイの柔軟な対応力と戦略的な成長戦略を考えれば、将来的にも魅力的な投資先であり続ける可能性が高いでしょう。