ドバイの不動産市場は、魅力的な税制で世界中の富裕層や投資家から注目を集めています。しかし、「税金がゼロ」という言葉だけで投資するのは危険といわざるをえません。今回は、ドバイの不動産税制の基本について解説し、日本人投資家が適切な税務管理を行うための指針をお伝えします。
ドバイ不動産税制の基本知識
ドバイの不動産には、多くの投資家が注目しています。まずは、日本では当たり前に課税される税金について、ドバイではどのようになっているのか解説します。
所得税・固定資産税・キャピタルゲイン税が非課税
ドバイには所得税が存在せず、収益不動産からの家賃収入も非課税です。土地や建物を所有する際に多くの国で課される固定資産税も、ドバイでは徴収されません。不動産を売却して得た収益に対するキャピタルゲイン税(譲渡所得税)も課されないため、投資家は税金を気にすることなく売却益を確保できます。
多くの国では、不動産投資で得られた収益は課税対象となります。そのため、税務管理を適切に行わないと、得られたはずのリターンが税金によって大きく目減りしてしまいますが、ドバイではその心配がありません。
相続税・贈与税も非課税
ドバイには、相続税や贈与税といった概念がありません。格差の固定化を防止し、資産を再分配するために多くの国で採用されている相続税・贈与税ですが、ドバイには存在しないのです。そのため、計画的な資産移転がしやすく、富裕層にとって大きな魅力となっています。
ただし、日本の居住者には、日本の相続税・贈与税が適用されます。ドバイのルールが適用されるには、大きなハードルがあるため注意が必要です。この点については後述します。
VAT(付加価値税)の適用
ドバイにはVAT(付加価値税)が導入されており、不動産の購入や関連サービスにはこの税金が適用される場合があります。
新築物件(オフプラン物件)をデベロッパーから購入する際には、通常VATが課されます。一方、個人が所有する中古物件(レディプラン物件)を別の個人が購入する場合、取引にはVATは適用されません。
不動産エージェントに支払う仲介手数料や弁護士費用などのサービスに対してもVATが課されます。購入を検討している物件や取引形態によってVATの適用が異なるため、契約前に必ず不動産エージェントや弁護士に確認し、総支払額にVATが含まれるか、いくらになるのかを把握しておく必要があります。
不動産取得・保有時にかかる税金以外のコスト
税金はかからなくても、不動産を購入・保有する際には、登記関連費用や管理費など税金以外の費用が発生します。
DLD(ドバイ土地局)登録料
ドバイで不動産を購入する際には、不動産の登記手続きを行うDLD(ドバイ土地局)に登録料を支払う必要があります。これは購入価格の4%に相当します。この登録料は、購入者が負担するのが一般的で、不動産購入における初期費用の大部分を占めるため、予算計画に必ず含めるべき項目です。
保有・維持にかかる費用
不動産を保有し続けるには、物件や共有部分の維持管理費用であるサービスチャージが継続的に発生します。サービスチャージは共用施設の維持管理やセキュリティ費用で、物件の広さや設備によって異なります。
火災保険料の支払いもあります。火災保険には「建物保険」と「家財保険」がありますが、両方を補償する「包括的な住宅保険」もあります。また、物件を賃貸に出す場合は、修繕費用や清掃費用、委託管理手数料なども加わります。
ドバイが税制優遇を実現できる理由
ドバイは、なぜここまで魅力的な税制を維持できるのでしょうか?その背景には、ドバイならではの経済構造と巧みな政策が存在します。ドバイの経済モデルは、石油収入に頼らない多角化戦略と、国際的なビジネスハブとしての地位確立を目指すという明確なビジョンにもとづいています。ここでは、ドバイが税制優遇を実現できる理由について解説します。
多様な収入源と経済政策の変遷
ドバイは石油依存から脱却し、観光、貿易、金融、テクノロジーなど多様な産業で収益を上げています。
観光業では、ブルジュ・ハリファやパーム・ジュメイラなど大規模なインフラを開発し、観光客からの宿泊費や飲食費などを主要な収入源としています。貿易と物流では、地理的優位性を活かして中東、アフリカ、アジアを結ぶ重要なハブとなり、物流関連サービスから収益を上げています。ドバイ国際金融センター(DIFC)のようなフリーゾーンを設置し、金融サービスやテクノロジー産業の発展も推進しています。
これらの多角的な収入源が政府の財政を支え、所得税や固定資産税といった直接税を課さずに安定した国家運営を可能にしているのです。税制優遇は、これらの産業をさらに発展させるための重要なインセンティブとして機能しています。
VAT(付加価値税)と輸入品への関税収入
ドバイを含むアラブ首長国連邦(UAE)は、2018年1月にVAT(付加価値税)を導入しました。税率は5%と比較的低いですが、ほぼすべての商品やサービスに適用されるため、活発な国内消費を通じて安定した税収源となっています。観光客や居住者が日常的に消費するあらゆるものに課されるため、課税対象となる経済活動の裾野が広く、効率的な徴収が可能です。
輸入品に対する関税も重要な財源の一つです。ドバイは世界中から多様な商品を輸入しており、これらの輸入品に対して関税が課されます。物流ハブとしての機能が強化されるほど、貿易量が増加し、それに伴う関税収入も増大します。
これらの間接税は、所得税や法人税のような直接税とは異なり、国民や企業に直接的な税負担感を強く与えにくいため、投資や消費活動を阻害することなく、政府が財源を確保できる仕組みが成り立っているのです。
法人税(原則9%)と対象
2023年6月より、ドバイでも法人税が導入されましたが、対象となる所得やフリーゾーン企業への優遇など、特例が多く設けられています。基本税率は9%ですが、年間課税所得が37万5,000AED(約1,500万円)以下の企業は、法人税が免除されます。
また、フリーゾーンに設立された企業は、特定の条件を満たせば引き続き法人税が免除される可能性があります。フリーゾーンの目的は、外国からの投資を誘致し、特定の産業クラスターを形成することであるため、税制優遇が維持されているのです。
日本人がドバイの節税メリットを受ける際の注意点
ドバイの税制は魅力的ですが、日本に住む日本人投資家がその恩恵を享受するには注意が必要です。日本の税法が大きく関わってくるため、安易に「税金ゼロ」と考えるのは危険です。ここでは、日本人がドバイの節税メリットを受ける際の注意点について解説します。
日本の「全世界所得課税」の原則
日本に居住している限り、日本人は世界中で得たすべての所得に対して日本の税金が課されます。ドバイの不動産所得・譲渡所得も例外ではありません。
日本の居住者である場合、所得税法第7条の「全世界所得課税」の原則が適用され、海外で得た不動産所得も日本の所得と合算され、日本の所得税(累進課税)と住民税が課されます。
ドバイの不動産から得た家賃収入や売却益は、ドバイでは非課税であっても、日本では所得とみなされ課税対象となります。たとえば、ドバイで不動産を売却してキャピタルゲインを得た場合、短期譲渡所得(所有期間が5年以内)だと39.63%、長期譲渡所得(所有期間が5年超)だと20.315%の譲渡所得税が適用されます。
「ドバイの税金はゼロだから、日本でも税金がかからない」という誤解は禁物です。
日本の「非居住者」となるための条件とハードル
ドバイの非課税メリットを最大限に享受するには、日本での税法上の「非居住者」となる必要があります。日本の税法上の非居住者とは、日本国内に住所を有せず、かつ、現在まで引き続いて1年以上居所を有しない個人を指します。
非居住者とみなされると、原則として日本国内で発生した所得のみが日本の課税対象となり、海外で得た不動産所得などには日本の税金はかからなくなります。
非居住者の判定は、単に住民票を抜くだけで済むものではありません。税務上は、個人の生活の本拠地がどこにあるかを総合的に判断します。非居住者認定を受けるには、日本との関係を物理的・経済的・社会的に断ち切り、生活の中心を完全にドバイに移す必要があります。
出国税(国外転出時課税)の対象となるケース
日本の非居住者となる決断をして、ドバイに移住する際にも注意すべき点があります。日本から一定額以上の金融資産を保有して海外に移住する場合、特定の資産に対して出国時に「出国税」が課される可能性があるのです。
出国税とは、正式名称を「国外転出時課税制度」といい、日本の富裕層が海外に移住する際の資産持ち出しを防止するために導入されました。具体的には、1億円以上の金融資産(有価証券など)を保有する居住者が、国外へ転出する際に、その資産の含み益に対して課税が行われるというものです。
多額の金融資産を保有している投資家は、出国税のリスクを慎重に検討する必要があります。出国税の計算方法や適用対象は複雑なため、移住計画を立てる前に、国際税務に詳しい税理士に相談する必要があります。
相続・贈与における日本の税制適用と対策
ドバイには相続税・贈与税が存在しませんが、日本の居住者であれば、海外にある資産であっても日本の税法が適用されます。そのハードルはさらに高く設定されているため、対策が必要です。
日本の相続税・贈与税は、被相続人(または贈与者)と相続人(または受贈者)の関係性によって適用範囲が異なります。たとえば、被相続人も相続人も日本に居住している場合、全世界の財産が日本の相続税の対象となり、ドバイの不動産も例外なく日本の相続税が課されます。
単に資産を海外に移すだけでは、日本の相続税・贈与税の課税を回避することはできません。被相続人(または贈与者)が日本に住所を持たず、海外に10年以上居住し続けている場合で、相続人(または受贈者)もまた海外で10年以上居住しているケースに限り、日本国外の資産に対して相続税・贈与税が課税されなくなります。俗にいう「10年ルール」です。
国際相続は非常に専門的な知識と周到な計画が必要で、これらはいずれも専門家(国際税務に詳しい税理士や弁護士)との綿密な相談なしには進めるべきではありません。安易な判断は、かえって高額な追徴課税や罰則を招くリスクがあります。
ドバイへの移住と居住ビザ取得の条件
不動産投資は、ドバイへの移住や長期滞在の足がかりとなる場合があります。ここでは、主要な居住ビザ取得方法について解説します。
不動産ビザ(Property Visa)の概要と条件
不動産ビザ(Property Visa)は、一定額以上の不動産投資で取得できるビザです。不動産ビザは、不動産投資を通じてドバイ居住を可能にする、一般的な方法の一つです。
不動産ビザを取得するためには、次のような要件が必要となります。
- 75万AED(約4,000万円)以上の物件を購入すること
- 犯罪歴がないこと
- 健康診断をクリアすること
不動産ビザの取得で、ドバイでの銀行口座開設や運転免許証の取得、子どもの学校への入学など、生活に必要なさまざまな手続きが可能となります。ただし、このビザは就労ビザではないため、原則としてビザ所有者自身が現地で働くことはできません。
ゴールデンビザ(Golden Visa)の概要と条件
ゴールデンビザは、UAEが特定の才能を持つ人材や大規模な投資家を誘致するために2019年から導入した長期滞在ビザ制度です。その有効期間は5年間または10年間と長く、より安定した居住資格が得られます。
ゴールデンビザを取得するには、科学、芸術、技術、またはビジネス分野で卓越した功績が求められます。たとえば、学術的な研究成果や国際的な受賞歴が該当します。
不動産購入の場合は、200万AED以上(約8,000万円)の投資が必要です。不動産以外でも、ドバイ国内でのビジネス投資が対象となる場合があります。
ゴールデンビザはビザ所有者だけでなく、その家族(配偶者や子ども)も同時にビザを取得できる点がメリットです。
ゴールデンビザは、不動産投資を通じて長期的な居住を目指す投資家にとって非常に魅力的な選択肢ですが、その条件は時期や個々の状況によって細かく定められています。申請を検討する際には、UAE政府の最新の規定を確認するようにしましょう。
まとめ
ドバイの税制は、所得税、固定資産税、キャピタルゲイン税、相続税、贈与税が無税となるなど、富裕層・投資家にとってはかり知れないメリットをもたらします。
ただし、日本に居住している限り、日本の「全世界所得課税」の原則が適用されるため、ドバイで得た不動産所得は日本で課税されます。この点を踏まえないまま投資を進めると、期待した節税効果が得られないばかりか、予期せぬ税負担に直面する可能性があるため、注意が必要です。
それでもなお、ドバイにおける不動産投資は、成長性、高い運用利回り、将来的な移住の可能性を考慮すれば、魅力的な選択肢の一つといえるでしょう。
ドバイでの不動産投資にご興味をお持ちの場合は、当サイト「ドバイ不動産投資ガイドfor日本人」までお気軽にお問い合わせください。当サイトでは、ドバイ現地で不動産の情報を収集しており、不動産の賃貸や売買の仲介も行っております。
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